照明を絞って。
2002年11月28日可也値の張ったブランド物のコートを着て
人に買わせた知らないメーカーのブーツを履いて
気だるく髪を軽く掻き上げてから
一寸のすまし顔で煙草に火を点ける
『誰かと待ち合わせ?』
何食わぬ顔で見ず知らずの男が声を掛けて来る
其処は新宿歌舞伎町
何もかも全てが当り障りの無い街
自分すらも自分でなくなる素敵な街
まだ陽は高い
ホテルの外に出て初めて薄暗い世界に気が付いた
何時の間にか街はスイッチを切り替えたみたい
此れが夜の始まり
呆けていると見落としてしまいがちな境目
そう言えば
東京はビルが多過ぎて空が見えないのを忘れてた
アタシには灰色にくすんだ空がほんの少し見えただけ
人も疎らな終電の窓の外に見えた空は漆黒
其れが空である事にすら確信が持てないくらいの深さ
此処から見えるもの
眠り始めた街
まだ車が行き交う道路
闇と言う空間
其処に浮かぶ月
半月?
此処から見える月は笑ってる
地元に着く前に電車が終わった
仕様が無いから何駅分か歩いて帰る事にする
慣れないブーツで一日中居たから足が痛い
痛む足で思いのほか長い駅の外の階段を降りる
『すんません』
聞き慣れない喋りで声を掛けられる
もう深夜零時を過ぎてるって言うのにまだ軟派?
『電車、降り過ごされましたか』
振り返った途端に言われたけど意味が解らない
『いいえ、どうかされました?』
問い返すと男は何か色々言ってたような気がする
でもアタシにはその後ろに月が見えるのが気になって
何時も通り微笑めたのかすら微妙かも知れない
今日の月はこんなに近かったかしら?
何処に行っても月が笑ってる
歩きながら何度も虚空を見上げてみた
真っ暗だと思っていた空には意外な程に沢山の星があって
それはちかちかと微かに瞬いても見えた
白く凍る吐息が永く尾を引く外気はもう冬のそれなのかも
寒いのも当然よね
立ち止まってマッチを擦る
一口燻らせてみるけど、不味い
矢張り何時ものを買えば良かったと思う
必要以上に自分の足音が聞こえた
コツコツコツコツ
まだ長い煙草を棄ててまた新しい一本を咥える
なんて無意味な動作
今日はまるで夢だったと思いながら
楽しかった今日は今はもう昨日なんだなとか無意味な事考えてみる
そうだ、明日からまた忙しいんだった
嗚呼、そんなにも楽しいの?
月まで笑ってるよ
笑ってるよxxx
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